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オバマ訪中と小沢訪中

 昨年11月、シンガポールで開かれたAPEC首脳会議に出席するため、オバマ米国大統領は就任後初めてのアジア歴訪を行った。日本1泊2日、中国3泊4日、韓国1泊2日の旅だったが、日程から見ても、米国の中国重視の姿勢がよく表れていた。

オバマ大統領は中国首脳との会談を通じて中国国民が達成した経済的成功に敬意を表しつつ、「米中(G2)協力で21世紀を形づくっていこう」と呼びかけ、 米中関係の深化、発展を提案した。これに対し、温家宝首相は、米中関係の深化には同意したが、「G2」の提案については「中国は人口が多いので、1人当た りGDPはまだ小さく、途上国の段階にある。また、中国は平和外交を進めており、多くの国がともに世界の問題を決めていくことが望ましいと考えているの で、G2(米中)主導という考え方はとらない」旨を述べて、一極や二極で世界をリードするのではなく、多極協調型の新しい世界秩序を支持する考えを示し た。

オバマ大統領は東京での演説で、「アメリカは太平洋国家であり、今後もアジアへの関与を続ける」と宣言したが、これは鳩山首相が提唱する「東アジア共同 体」が日中韓主導で進められ、米国が外されること、とりわけ、世界経済の主役として劇的に台頭しつつあるアジア経済から取り残されることをつよく警戒する 発言だったとみられている。あるイタリア紙記者は「(APEC会議など最近の世界の動きは)、アメリカの時代が終わって、中国の時代が到来しつつあること を示している」との感想を述べていたが、世界はいま大きな変わり目に入りつつあるようだ。

オバマ大統領が北京を去って間もなく、民主党の小沢幹事長が140名の国会議員を含む600名の代表団を伴って訪中した。マスコミはこれを「派手な訪中」 と批判したが、98年のクリントン大統領の訪中をはじめ、欧米の指導者が数百名を伴って訪中するのは珍しいことではない。中国の省長たちが数百名を率いて 訪日することもしばしばである。問題は目的ではないか。新政権の中国重視を強く印象づける訪中になった点が重要である。さらに小沢氏は韓国に飛び、韓国併 合100周年に当たり、植民地支配への謝罪発言をした上で、日韓関係の深化を提案した。

オバマ氏の「G2(米中)」を軸とするアジア戦略に対し、日中韓結束をめざす「アジア重視の外交」を対置した小沢外交―それは米中協調、米朝対話の進展と あいまって東アジアの安保環境の改善にもつながる。日本にも自主「外交」復活の兆しが見えてきたと思いたい。

(久保孝雄)

『日本と中国』10年1月25日所載

『三つの米中逆転』と日本人の意識

 中国人学者の沈才彬(多摩大教授)さんは、最近の中国台頭の勢いを示すものとして、「三つの米中逆転」に注目している。沈さんが指摘しているのは、自動車世界一の米中逆転、日本の貿易相手国№1の米中逆転、来日外国人数における米中逆転の3つである。

20世紀初頭、自動車産業が誕生してから1世紀以上にわたって、生産と販売の世界一は米国が独占してきた。それが今回の経済危機で生産、販売とも大きく衰 退し、世界一の座を中国に譲り渡すことになった。今年、1~7月の新車販売台数は米国の580万台に対し、中国718万台で中国が世界一になった。今年の 世界の自動車販売台数は5500万台と見込まれているが、うち1100万台を中国が占めるという。しかも普及率は米国の80%、日本の60%に対し中国は 5%だから、中国の世界一の座は当分ゆるぎそうにない。

今年1-7月の日本の貿易額のうち対中輸出額は18.7%を占め、米国の16%を上回った。通年でも米国を上回る見通しだ。香港を含めると07年から中国 が№1の地位を占めている。これは日本の貿易統計が始まっていらいのことであり、日本の貿易構造が歴史的変化を起こしていること、日本経済が米国離れと中 国依存を強めつつあることを示している。

来日外国人の数でも、米中逆転が起きている。07年の来日米国人81万人に対し、来日中国人は94万人で、初めて中国が米国を上回ったが、この差はその後 も拡大し続けている。また、日本人の海外渡航先でも、00年から米中逆転が進み、07年には中国に渡航した日本人が390万人、米国(本土)へは130万 人で、ギャップは開く一方である。

これらの事実は、世界経済における中国の存在感の高まり、日中経済の緊密化、一体化の進展、日中両国民大交流時代の始まりを示しているが、にもかかわら ず、他方では両国民の相互嫌悪、相互誤解が深まっているという深刻な問題がある。内閣府の調査(07年)によると、日本人の対中好感度は31%と極めて低 く、呼応するかのように中国人の対日好感度も4割を切っている。

この背景には「毒入り餃子」事件などを機に、マスコミなどで煽られた台頭する中国への反中、嫌中ムード、「靖国問題」などに反発する中国の反日、嫌日感情 の高まりなどが考えられるが、いずれにせよ日中関係の将来にとって極めて由々しき事態であり、日中友好運動の鼎(かなえ)の軽重が問われている問題でもあ る。

(久保孝雄)

『日本と中国』09年10月25日所載

『中国の時代』は来るのか

 先日、バス待ちの合間に何気なく入った本屋で『中国の時代』(ダイヤモンド社)という本を見つけた。著者はジム・ロジャーズ。米国では冒険的投資家として知られている人らしい。この本も「全米ベストセラー」と帯に書いてある。

彼はかつて著名な投資家ジョージ・ソロスと投資会社を起こして大金持ちでなったが、37歳で引退し、ウォール街で静かに暮らし始めたものの「現場好き」の 心が疼(うず)きだし、世界の息吹を肌で感じとるためバイクを駆って世界一周の旅に出た。一度では飽き足りず、バイクを乗り換えて再度、とりわけ中国を丹 念に回ったようだ。

バイクによる過酷な世界二周で、ロジャーズが到達した結論は「21世紀は中国の世紀になる」ということだった。「19世紀はイギリスの時代、20世紀はア メリカの時代だったように、21世紀は中国の時代になる」とロジャーズは断言し、中国には無限のビジネス・チャンスがあると投資家たちを励ましている。

私は投資には縁遠い人間だが、ロジャーズの中国観にはとても興味をひかれた。彼は個別の銘柄の話に移る前に「私にできる最高のアドバイスをしたい」と言っ て、「あなたのお子さんやお孫さんに中国語を習わせなさい。彼らが生きている間に中国語は一番重要な言語になるだろう」と述べている。

さらに何度でも中国に行き、中国の生活と文化を体験し、中国問題の良書を読み、「中国脅威論を説いて人を怖がらせて日銭を稼いでいる”専門家”と称する連 中」に惑わされず、自分の中国観を持ちなさいと言っている。彼はそう説くだけでなく自ら実践している。「私は中国の長期的見通しを固く信じているので、 03年に生まれた娘、ハッピーに中国人の乳母を雇った。おかげで彼女はもう北京語がうまく話せる。もう一度言う。(私のように)ドルを売って元を買って、 子供に中国語を学ばせなさい」。

折しも、ラクイラ・サミットで、これまで世界の主役だったG8が限界を露呈し、G20こそが国際社会の新たな主役であることをまざまざと示した。今度のサ ミットで最も注目されたのは、初デビューのオバマと世界経済のけん引役となった胡錦濤の言動だった。オバマは「核のない世界」の提唱でニュー・アメリカを 演出したが、胡錦濤はウイグル動乱で急きょ帰国し、大きな穴を開けてしまった。しかしこれが却って中国の存在感を際立たせることになったという。「中国の 時代」は一歩ずつ確実に近づいているようだ。中国の覚悟と用意を国際社会が問い始めている。

(久保孝雄)

『日本と中国』09年8月15日所載

建国50年と60年の違いは大きい

 いまから10年前、北京在住の友人に招かれ、建国50周年の国慶節に沸く北京に飛んだ。天安門前のパレードは大変な人込みでよく見えなかった(後にTV で視聴した)が、夜、市内各所から途切れることなく打ち上げられた花火の饗宴には酔いしれた。とくに、宿泊中のホテル近くの広場から打ち上げられた花火の 華麗さには圧倒される思いだった。私は花火に見とれながら、中国革命の苦難の歴史や建国いらい50年の歩み、日中友好の険しい道のりなどを想い浮かべてい たが、いつしか胸に熱いものがこみ上げてきた。

改革・開放いらい20年でGDP(国内総生産)は25倍になっていたが、さらに、この50周年を機に中国経済の新たな発展が始まった。2000年には工 業生産高で世界一になり、GDPも初めて1兆ドルを超え、世界第7位にランクされた。01年にはWTO(世界貿易機関)への加盟を実現し、04年からは先 進国サミットのオブザーバーに迎えられている。その後も10%台の高度成長が続き、08年にはGDPでドイツを抜いて世界第3位に躍進した。あと1~2年 で日本を追い越し、世界第2位を占める勢いである。

 史上最強の軍事力をもってしてもアフガニスタン、イラクで「勝利」できない米国は、大きく威信を傷つけられているが、米国発の金融危機、経済危機を機に 世界経済における「米国一強時代」も終わりつつある。金融サミットが先進国クラブのG8ではなく、新興国を含むG20で開催されたのも、世界経済の主役交 代を告げるシグナルといえる。米国経済依存からの脱却や基軸通貨ドルの見直しも議論されたロンドン・サミットの歴史的意義もここにある。なかでも中国の存 在感がきわ立って大きく、世界経済回復への牽引役を期待され、早くも実績をあげつつある。これを受けて、米国内にはG20をリードするためにもG2(米 中)の連携、協調がより重要になっているとの考え方が浮上している(フレッド・バーグステンやガイトナー財務長官らの発言)。G8からG20へ、さらに G2へと、世界経済の構造変動、主役交代が急ピッチで進んでいる。

 今年は建国60周年だが、50周年を祝った10年前に比べ、世界の政治、経済に占める中国の地位は様変わりに変わっている。もはやアジアも世界も、中国 抜きには物事が決められなくなっている。それだけに、地球や人類の未来に対する中国の責任はズッシリと重くなっている。その覚悟と方策がつよく求められる なかで迎える60周年である。

(久保孝雄)

『日本と中国』09年6月15日所載

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